日興アセットマネジメントは、2023年4月26日、「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」を信託報酬0.05775%で新規設定します。
これは同種ファンドである「たわらノーロード全世界株式」(2023年4月7日に引き下げ)や「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」(2023年5月11日に引き下げ予定)の信託報酬0.1133%の50.97%であり、驚愕の安さです。
【参考】
●信託報酬0.05775%の全世界株インデックスファンドが登場~「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」
https://tawaradanshaku.blogspot.com/2023/04/005775tracers-msci.html
しかし、安さには理由があるはずです。
純粋に頑張っただけなのであればよいのですが、それ以外のカラクリ(他社が運用会社報酬から支払っている費用をファンドに負担させている等の事情)があるのであれば、それも考慮した上でファンド選択をする必要があります。
ここで参考になるのが、アクティブファンドでありながら信託報酬0.077%で登場した「SOMPO123先進国株式」の安さの理由です。
【参考】
●SOMPO123先進国株式、信託報酬0.077%でやれる理由
http://tawaraotoko.blog.fc2.com/blog-entry-2317.html
●信託報酬、破格の0.077% 「SOMPO123先進国株式」のカラクリとは
http://tawaraotoko.blog.fc2.com/blog-entry-2383.html
私は、SOMPO123先進国株式が安い理由として、①貸株に出すことで運用会社報酬とは別の報酬(品貸料の50%)を得る、②アクティブファンドにすれば指数のライセンス料を負担しなくても済むからではないかという点をかつて指摘しました。
※指数のライセンス料は、普通は運用会社が負担します。
トレーサーズオールカントリーはどうなのか、その目論見書(ここではエディネットに登録された有価証券届出書のことを便宜上「目論見書」と記載します。以下同じ)を見てみます。同じ会社が運用する別のファンドの目論見書と見比べると違いがよく分かりますので、「インデックスファンド海外株式ヘッジなし」(日興アセットマネジメント最大の先進国株インデックスファンド)の目論見書と比較してみます。
まず、品貸料ですが、目論見書に次の記載があります。下記記載は、「インデックスファンド海外株式ヘッジなし」の目論見書には記載されていないものになります。
有価証券の貸付を行なった場合に限り、その対価としての品貸料(マザーファンド(当該マザーファンドの約款において、品貸料の一部を、同マザーファンドに投資を行なっている証券投資信託の報酬として収受する規定のあるものに限ります。)における品貸料については、他の証券投資信託が同一のマザーファンドに投資を行なっている場合は、マザーファンドの純資産総額における当該各証券投資信託の時価総額に応じて、毎日按分するものとします。)に0.55(税抜0.5)を乗じて得た貸付有価証券関連報酬。委託会社と受託会社の配分は4:1とし、信託報酬と同時期に支払います。
やはり品貸料の50%が運用会社報酬とは別の報酬、すなわち「貸付有価証券関連報酬」として徴収される建付けになっています。
貸付有価証券関連報酬が「インデックスファンド海外株式ヘッジなし」の目論見書には記載されていないということは、「インデックスファンド海外株式ヘッジなし」では貸株をしていないか、貸株をしているものの品貸料は全額ファンドに入れている(貸付有価証券関連報酬を徴収していない)かのどちらかであるということを意味します。
日興アセットマネジメントに聞いてみました。
「インデックスファンド海外株式ヘッジなし」はこれまで貸株をしたことがないので品貸料は発生していないが、仮にこれからするのであれば貸付有価証券関連報酬を徴収する旨を目論見書に記載していない以上、品貸料は全てファンドに入れることになる(貸付有価証券関連報酬を徴収するときは目論見書を改訂する)ということでした。
つぎに、ライセンス料ですが、目論見書に次の記載があります。下記記載は「インデックスファンド海外株式ヘッジなし」の目論見書には記載されていないものになります。
① ファンドの計理業務(設定解約処理、約定処理、基準価額算出、決算処理等)およびこれに付随する業務(法定帳簿管理、法定報告等)に係る費用。
② 振替受益権に係る費用ならびにやむを得ない事情などにより受益証券を発行する場合における発行および管理事務に係る費用。
③ 有価証券届出書、有価証券報告書、半期報告書および臨時報告書(これらの訂正に係る書類を含みます。)の作成、印刷および提出に係る費用。
④ 目論見書および仮目論見書(これらの訂正事項分を含みます。)の作成、印刷および交付に係る費用(これらを監督官庁に提出する場合の提出費用も含みます。)。
⑤ 信託約款の作成、印刷および交付に係る費用(これを監督官庁に提出する場合の提出費用も含みます。)。
⑥ 運用報告書の作成、印刷および交付に係る費用(これを監督官庁に提出する場合の提出費用も含みます。)。
⑦ ファンドの受益者に対して行なう公告に係る費用ならびに信託約款の変更または信託契約の解約に係る事項を記載した書面の作成、印刷および交付に係る費用。
⑧ 格付の取得に要する費用。
⑨ ファンドの監査人、法律顧問および税務顧問に対する報酬および費用。
⑩ ファンドおよび主要投資対象である各マザーファンドの運用において利用する指数の標章使用料。
⑪ ファンドおよび主要投資対象である各マザーファンドの運用において利用する指数の指数値、構成銘柄、構成比率等の情報および投資対象市場の動向や特性等に関する情報の入手に要する費用。
⑫ ファンドおよび主要投資対象である各マザーファンドの運用において、クリアリング機構を利用した場合に生じる諸費用(当該関連費用を受託会社から請求された場合も含みます。)。
これらの費用のうち、⑨の監査人に対する報酬・費用については「インデックスファンド海外株式ヘッジなし」の目論見書では「信託財産の財務諸表の監査に要する費用(日々、計上されます。)」というように違った表現ではあるものの記載されています。しかし、それ以外の費用(⑨の法律顧問や税務顧問に対する報酬・費用を含む)については記載されていません。
これらの費用が「インデックスファンド海外株式ヘッジなし」の目論見書に記載されていないということは、「インデックスファンド海外株式ヘッジなし」では運用会社が負担しているということを意味します。
日興アセットマネジメントに聞いてみました。私の認識のとおりであるということでした。
また、上記①~⑫(除く監査費用)は何パーセントになるのか、試算をしているのであれば試算の数値、していないのであれば「インデックスファンド海外株式ヘッジなし」の実績値で教えてほしいと頼んでみたところ、「事前に内部で試算しているが、その数値を開示するつもりはない」とのことでした。
私は、①~⑫の費用を運用会社報酬ではなく、「その他費用」にしてファンド負担にすること自体には賛成です。
というのは、運用会社報酬がその分だけ減ることになり、運用会社報酬と同率であることが通常である販売会社報酬も減るという効果が期待できるからです(もっとも、SBI証券は販売会社報酬の100%をポイント還元してくれるため、SBI証券で保有する限りにおいては販売会社報酬が安くなることによるメリットはありません)。
しかし、運用会社報酬から外に出したことで、顧客が最終的に負担する金額がいくらになるかが分からなくなってしまうことになるのであれば話は別です。
日興アセットマネジメント自体が把握していないというのであれば仕方がないことですが、①~⑫の費用については事前に内部で試算しているということですから、開示をしないのは不誠実であると思われても仕方がないし、他社の同種ファンドは①~⑫の費用をファンド負担にはしていないわけですから、もし日興アセットマネジメントがこの点を明示せずに殊更にトレーサーズオールカントリーの信託報酬の安さを大々的に喧伝するのであれば優良誤認表示ではないかとの非難を免れないと考えます。
最終的に三菱オルカンとの年末までのリターン差がどれだけ出るか、純資産積み上げが順調にいけるか、で来年からのシンNISA戦争の雌雄が決するのでしょう。
返信削除日興トレイサーズはMSCI-Kokusai、SP500、TOPIXでもど真ん中勝負を仕掛けてきてほしい。
日興が泥試合に持ち込んでる感じですね。男爵さんは運用が安定する2年後くらいにどちらのリターンが上だと予想しますか?
返信削除現状、PayPay投信のファンドが、「見掛けの信託報酬は低いのに運用報告書で実質コストが判明したら激高でびっくり」という事を繰り返しています。
返信削除スリムシリーズがPayPay投信の信託報酬に対抗しないのは、「あそこは自分達とはルールが違う」と考えているためかなと思っています。
今回のTracersオールカントリーも同様でしょうか。運用報告書が気になります。
ただ、「信託報酬」はとても注目度が高く、男爵さんのようにその他費用を詳細に分析する人は少ないでしょうから、この手法を使うファンドは今後増えそうです。
いっそ、既存ファンドも諸費用を「その他費用」として外出しするようルールを変えてしまえばいいようにも思いますが、既存ファンドの目論見書改訂はハードルが高い気もしますね。
これが相次いだら、その他費用の見通しを目論見書で事前に明記するよう、金融庁が動くかもしれません。
コメントありがとうございます。
返信削除>純資産積み上げが順調にいけるか
リターン差は分かりませんが、純資産額は1000億円の大台に簡単に乗りそうな気がしています。
>トレイサーズはMSCI-Kokusai、SP500、TOPIXでもど真ん中勝負を仕掛けてきてほしい。
全てはオールカントリーが売れるかどうかにかかっているような気がします。
>男爵さんは運用が安定する2年後くらいにどちらのリターンが上だと予想しますか?
リターンは分かりませんが、うまくやればSBI・V・S&P500の用に大成功するかもしれないとは思っています。
>スリムシリーズがPayPay投信の信託報酬に対抗しないのは、「あそこは自分達とはルールが違う」と考えているためかなと思っています。
スリムは、覇権を取った今、もう信託報酬を引き下げたくないと思っているだけだと思います。
>この手法を使うファンドは今後増えそう
全てはトレーサーズオールカントリーが成功するかどうかにかかっていると思います。
日興は勿論、他社もドキドキだと思います。
全世界株式クラスがとても注目されるので明るみに出たのでしょう。
返信削除ふと気になって調べたのですが、
Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)、Tracers S&P500配当貴族インデックス(米国株式)をはじめとする「Tracersシリーズ」の4本ファンドの請求目論見書をみると「ファンド の指数の標章使用料」を信託報酬と別建てで徴収できることになっているようです。
同社のほかのファンドは調べていませんが。
その後の日興アセットマネジメントのメディア対応をみるとずっと前からやっていたことなのに、トレカンだけが取り上げられたことで、日興アセットマネジメントとしては、Tracersシリーズ(だけかな?)すべてについて言及することを避けたように見えます。
コメントありがとうございます。
返信削除>「Tracersシリーズ」の4本ファンドの請求目論見書をみると「ファンド の指数の標章使用料」を信託報酬と別建てで徴収できる
日興アセットマネジメントに以前聞いたところ、昔のファンドは日興アセットマネジメントが負担しているが、最近のファンドはファンド負担にしていると言っていました。
日興アセットマネジメントに悪意があったかどうかは別として、これほどまでに批判を受けている現状では、1日でも早く試算結果を公表したほうがよいと思っています。