楽天投信投資顧問が運用する「楽天・S&P500インデックス・ファンド」の純資産額が、2023年12月18日、100億円に到達しました。
同ファンドの新規設定日は2023年10月27日ですので、1か月と22日での達成となります。
これに対し、ニッセイアセットマネジメントが運用する「ニッセイ・S米国株式500インデックスファンド」の純資産額は、わずか4億7000万円にすぎません。
同ファンドの新規設定日は2023年11月13日であり、楽天S&P500の17日後とはいえ、この差は異常です。
楽天S&P500の販売会社が楽天証券1社だけであるのに対し、ニッセイS米国株式500の販売会社はSBI証券、楽天証券、マネックス証券、auカブコム証券の4社であることや、楽天S&P500の信託報酬が0.077%であるのに対し、ニッセイS米国株式500の信託報酬が0.05775%であることからすれば、ニッセイS米国株式500の指数が全く認知されていないものである(=「S&P500」というブランドバリューがない)という弱点があるにせよ、これほどの差がつく理由になるとは思えません。
理由を考えてみました。
そもそも、米国株インデックスファンドの王者は、純資産額2兆9468億円の「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」です。米国株ファンドが欲しい人であれば真っ先に検討するファンドと言えます。
そのため、新ファンドの潜在的な顧客は「現在スリムS&P500を買っている客」になりますし、新ファンドがどのくらい成功するかは「現在スリムS&P500を買っている客をどのくらい奪えるか」にかかってきます。
SBI証券をメインにしている人で考えてみます。
SBI証券には投信残高ポイントがあります。
スリムS&P500の信託報酬は0.09372%ですが、投信残高ポイント0.0326%があるため、実質0.06112%となります。
これに対し、ニッセイS米国株式500の信託報酬は0.05775%ですが、投信残高ポイントは0.0187%であるため、実質0.03905%です。
両者の差は0.02207%。これは、1000万円あたり2207円です。
この程度の差だと、投信を乗り換えるという動機には弱い感じがします。特にスリムシリーズの顧客は「他社がより安いファンドを出しても、スリムは必ず対抗値下げをする」という強い信頼感を抱いていることから、「しばらく待っていればニッセイS米国株式500にも対抗値下げするに違いない」と考えて拙速な乗換えはしません。
このような理由で、SBI証券では、スリムS&P500からニッセイS米国株式500への顧客の移動が発生しなかったのでしょう。
これに対し、楽天証券をメインにしている人で考えてみます。
楽天証券には、楽天プラスシリーズにだけ投信残高ポイントがあります。
そのため、スリムS&P500の信託報酬が0.09372%であるところ、楽天S&P500は信託報酬0.077%-投信残高ポイント0.028%=0.049%となります。これはスリムS&Pのほぼ半額ですから、非常にインパクトがある数字です。
しかも、楽天証券が信じられないほどの力を入れて宣伝しています。
「新NISA全力応援!投信残高ポイントプログラム」と銘打っていますが、「新NISA」ではなく「楽天プラスシリーズ」を全力応援しているとしか思えない体裁です。
おそらく楽天証券は気づいてしまったのでしょう。このまま何も手を打たなければ、税抜販売会社報酬相当額を全てポイント還元するSBI証券に新NISA口座を奪われてしまう、ということに。
とはいえ、SBI証券と同様の施策をしたくても、楽天グループには金がありません。そのため、楽天投信投資顧問に新ファンドを作らせ、税抜販売会社報酬の全額をポイント還元したとしても運用会社報酬でかろうじて利益を上げる仕組み(=楽天プラスシリーズ)を考えたのだろうと思われます。
SBI証券ではなく楽天証券を選ぶ人は、楽天市場・楽天カード・楽天モバイルといった楽天グループのサービスを利用する中で楽天ポイント経済圏に取り込まれた人が多いと思われます。
そのような人は「楽天ポイントを考慮すると実質半額」というフレーズを聞くと、条件反射で高揚して血がたぎります。ポイントでお得に買えると言われると、買わずにはいられなくなってしまうわけです。
楽天プラスシリーズの販売会社は楽天証券だけですが、仮に他社が取扱いを開始したとしても、ニッセイS米国株式500が売れなかったように、他社では売れないでしょう。
しかし、楽天証券では、
積立設定金額ランキング(月間)第3位
【参考】
積立設定件数ランキング(月間)第3位
【参考】
という驚くべき結果になります(ちなみに、第1位と第2位は、スリムS&P500とスリムオールカントリーです)。
これが楽天マジックです。
楽天証券の楠社長の手腕は、さすがです。
返信削除冷静に考えると、別記事のとおり楽天投信の現物株運用は乖離が怖く、一方でニッセイの現物株運用は充分にノウハウがあり、信託報酬差どおりのリターンが期待出来ると思うのですが。。。
そんなの全部ねじ伏せて2ヶ月弱で100億円に乗せるのだから、大したものです。男爵さんがお書きのとおり、純資産額は顧客の愛。数字が全てですね。
ニッセイS500は、面白いと思うんだけどなぁ。個人的には、1月から積立購入するよう設定しています。
返信削除(当然ながら)NISAの成長投資枠でしか買えなかったり、パチもん感がぬぐえないのだろうか。
これを覆すには、S&P500連動ファンドを上回るリターンを示し続けるしかない。
コメントありがとうございます。
返信削除>楽天証券の楠社長の手腕は、さすがです
楽天プラスシリーズがコケたらグループ内部で肩身が狭い思いをすることになりましたので、よかったですよね。
>ニッセイの現物株運用は充分にノウハウがあり
ニッセイAMもニッセイ外国株の運用でいろいろとありましたが、初心者の楽天投資新投資顧問よりは遥かにマシだと思います。
ただ、全てを塗りつぶす楽天マジックはおそろしいです。
>ニッセイS500は、面白いと思う
スリムS&P500が対抗値下げをする前にどれだけの純資産額を集められるかが勝負ですが、現状では厳しそうです。
>これを覆すには、S&P500連動ファンドを上回るリターンを示し続けるしかない
インデックスファンドですから、圧倒的な低コストで顧客に訴求するしかないと思います。
クレカ積立10万円化の内閣府改正について、パブコメが始まりました。
返信削除https://www.fsa.go.jp/news/r5/shouken/20231219/20231219.html
12/19から来年1/18まで。これだと3月頃に内閣府令改正施行、新年度分から各社適用開始くらいでしょうか。(もっと早いかも?)
個人的には、思ったよりサクサク進んでる感覚です。
さて、各社のポイント還元率はどうなるか。
情報提供ありがとうございます。
返信削除>個人的には、思ったよりサクサク進んでる感覚です。
確かに役所にしては爆速ですね。
金融庁のやる気を感じますね。